機関紙「パイル・フォーラム」

機関紙「パイル・フォーラム」第二十二号

発行日:令和3年3月11日

シリーズ“技術放談” 10「杭施工の”見える化”とその効果」

加倉井正昭

現在までの杭(既製杭及び場所打ちコンクリート杭)の施工技術の開発は目覚ましいものがある。特にその支持能力の向上のみならず耐震性能も大きく向上している。

個人的な思いも含めて言うと、これらの技術開発により大規模な構造物(例えば超高層建物)が今まで不可能であった地盤でも建設可能になった。これは非常に注目すべきことであり、杭の技術開発が現在の都市部(特に臨海部分)の建設計画を可能にした重要技術であり、都市の新たな発展に大きく貢献したと言える。

ただその評価を受けるべき当事者にその思いが強くなくてはならないが、現実はそれを認識し、口に出す人は少ない。これはその多くが経験則であり、第三者にその説明が難しく、杭の施工技術が高度化すればするほど、その施工管理は経験ある当事者同士では理解し得ることだが、それ以外の人には理解が難しいということも原因の一つといえる。

杭の施工技術に関する文献などでは必ず出てくる言葉に「杭は地中に構築されて目視できないゆえにその管理はどうしても間接的なものになるのはやむ負えないことである。」という趣旨の言葉がある。まったくその通りであり施工関係者はそのために色々な努力でその課題を克服してきている。
そこで少し見方を変えて杭の施工状況を「見える化」してその中に施工管理結果をなるべく図化して表示できないかという考え方はいかがであろうか?少し思い付き的なアイデアではあるが、今の施工関係者間の施工状況共有に時間差がある状況も考えると、一つの提案として検討に値するような気がする。最近の画像処理技術とICT(情報通信技術)は十分にその要望に応えられるレベルにあると思える。例えば宇宙を飛ぶ衛星とか他の惑星に着陸したロケットなどの画像をテレビ画面などでよく見かけるが、実際はそこにいないのに、あたかも自分がその場にいるような臨場感を与えられる。これができるならば、我々の扱う杭もその地盤と杭体を3次元画像化して、杭が施工されていく状況を地中で見ているようにビジュアルに示すことは難しくないような気がする。
例えば施工する杭が、想定されている位置付近における背景に、支持層を含めた層序が3次元化されてあり、隣接杭あるいは既存杭とかもその中に画像化されているところに、場所打ちコンクリート杭で言えば、実際の施工に従って掘削時の掘削孔の表示とかコンクリート打設中の杭体部分を3次元表示でそこに描けば、施工者はあたかも地盤の中にもぐりこんだような状況で、施工の現状把握が可能にならないだろうか。その画像データに施工管理データをどのように組み込んで実際の杭体の形状などに近づけるか等、課題は色々あるだろう。今の施工管理は画面上に管理データが数字化あるいは図化されているのがせいぜいである。
これに対して3次元の画像データを使って、現在施工中の杭の状況があたかも見ているように映し出され、かつICTを使って関係者に同時配信されていれば、今どのような杭がどの程度まで施工され、どの程度の状態にあるかを施工担当者のみならず管理者も含めて瞬時に理解することができる。この効果は大きく、管理における見落しとか勘違いなどの可能性を少なくするだけではなく、関係者全員が施工を行い管理しているような臨場感を作り出すことなり、関係者の施工における一体感も生まれるであろう。
更に言うと、この技術が発展すれば想定されるメリットに施工従事者の負担軽減がある。この画像により管理者などは即座に現状把握が可能になるので、一々状況を確認するために施工途中での報告が必要なくなるので、「見える化」以上に、それこそ「見ればわかる化」の効果であり、施工従事者は施工自体に集中することができ、結果として施工品質の向上につながることが期待される。この関係の技術は日進月歩の状況にあるので、画像をより現実化するための計測関連の技術の展開も促し、施工後の発注者などへの説明と理解の向上にも大きく貢献することが期待されると思うが如何だろうか。

本文は拙文「総説 場所打ちコンクリート杭の施工管理の役割とその将来像:基礎工2020年10月号」の一部を使って筆者が修正加筆したものである。

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