機関紙「パイル・フォーラム」

機関紙「パイル・フォーラム」第十九号

発行日:令和元年10月6日

シリーズ“技術放談” 9「地盤調査から敷地調査へ」

加倉井正昭

建築において地盤調査により地盤の性状を求め基礎の設計に生かすことは重要であり、欠くことのできないプロセスであると思われていた。勿論その過程は重要であり、地盤の専門家がその専門知識に基づいて判断した結果は尊重すべきものであろう。しかし建築の場合にはその調査結果をすべてのよりどころとして基礎構造を計画して設計していいだろうか?というのはその敷地がそれまで更地あるいはそれに近い状態であるのならば、地盤調査結果を金科玉条としてもよいかもしれないが、市街地の建築を想定したときに果たしてその考え方は適切であろうかという疑問が出てくる。

例えば既存躯体がどのようなものかを想定してみると、従来はその敷地に比較的小規模な構造物があり、新しく計画する構造物はそれに比べて十分に大きく、既存基礎の影響はあまり考えずに新しい基礎の計画、設計、施工へと進めていけた。しかし最近の状況はどうもそのようにはいかないようであり、既存基礎の規模も新しい構造物の基礎とそれほど変わらない場合も多く、その影響をどう評価するかが重要な検討事項になっている。また護岸近傍の敷地の時に、護岸の耐震性に関する基本的な条件が把握できないと、計画している敷地への影響を検討できない。傾斜地においても同じような問題が考えられる。このように近隣の状況によっては平地の基礎構造にない対応をすべきかどうかは敷地周辺の調査結果に依存している。

また敷地近隣の建築物あるいは道路事情によっては採用できない基礎構造も存在する。従来もこのような問題点の指摘はあったが具体的にどのような調査をしてどのような性状を把握すべきかの具体的な提案はなく、設計の判断にゆだねられていた。設計者が敷地調査に具体的にどのように関わったか、またその結果を設計にどのように反映したかという視点での設計例はないとは言えないが一般的ではない。

そう考えると基礎構造の計画とか設計さらに施工を全体で考えた時には地盤調査はその一端であり、その上位に「敷地調査」があり、その一項目として地盤調査を置いたほうがより合理的と考える。同じような例として地盤調査報告書によくある内容として敷地の地質についての記述がみられるが、その内容はあくまで概括的であり、地盤調査会社のサービスのような位置づけである。その内容は単なる地質的視点だけで、その結果から設計あるいは施工に関する課題を指摘した例はほとんど見たことがない。マクロの地形的な視点での見解のみならず、ミクロな視点での敷地周辺の状況から想定される災害リスク、あるいは基礎構造設計上の課題があるかどうかを、予め調査計画をする時点で要求することも場合によっては必要になるであろう。

これらも今までのありきたりのものから本当に基礎設計、施工に役立つ調査の必須事項として取り上げるべきものであり、サービスだけで行われるような類のものではない。

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