発行日:平成26年7月27日
既製コンクリート杭はその高支持力化に伴う杭体強度の増加が著しい一方、その耐震性については曲げ耐力、せん断耐力、変形性能等に多くの問題があることが指摘されています。
そこで東日本大震災において、多くの杭被害調査と分析を行った千葉大学の中井正一教授にその内容の説明とその結果を踏まえての講演をして頂き、次にパイルフォーラムが中心になって開発された鋼管巻き既製コンクリート杭(SPHC杭)の紹介が行われました。
当日は学識経験者のみならず実務家も含めて多くの分野からの参加をいただき、活発で有意義な質疑が行われました。以下に報告と議論の概要を紹介します。
第5回パイルフォーラム技術交流会「既製コンクリート杭の耐震性評価と新しい耐震杭(SPHC杭)について」
日時:平成26年6月27日13:30〜17:00
場所:地盤工学会地下大会議室(東京都文京区千石4-38-2)
1. 主旨説明・司会
桑原 文夫(パイルフォーラム)
今回のパイルフォーラム技術交流会の主旨説明を行った。
2. 基調講演
中井 正一(千葉大学)
2011年東北地方太平洋沖地震による建物基礎の被害を受けた建築物のうち基礎ぐいを用いた建築物の被害実態を把握する調査と、その一部については詳細な調査と被害原因の推定と今後の課題の推定を行った。杭被害が見られたのは、中低層の集合住宅・事務所建築で上部構造の被害は少なく、傾斜被害が多かった。杭種はPC杭の杭頭の曲げせん断破壊が多く、PHC杭、鋼管杭の被害は見られなかった。地盤が軟弱とか不整形の場合にその影響を受けた被害があった。建物の継続使用を考えると、上部構造だけでなく、基礎構造も考慮した耐震診断・補強の必要性が痛感させられた。
また今後の杭の耐震設計を考えると既製コンクリート杭もその強度特性(特にM-Φ関係と靭性性能)の把握が必要であり、PHC杭、PRC杭について既往データと共に新たな実験結果より軸力変化と強度特性についての性状把握結果を示した。
今後は杭の挙動解明の解析法の高度化と共に、杭体のみならず杭頭接合部の強度変形特性の評価手法の確立が望まれる。
3. 新しい耐震杭(SPHC杭)について
3.1 SPHC杭の役割と性能
加倉井 正昭 (パイルフォーラム)
既製コンクリート高強度化、大径化に伴う杭体の耐震性の不安が指摘されている。また地震後の杭の被害調査は容易ではなく、沈下傾斜が著しい場合を除いて実施されないのが通常である。このために地震時に損傷した杭が放置されている可能性が指摘される。SPHC杭は高い耐力と変形性能を兼ね備えただけでなく地震後の杭体が補修・補強を必要としない杭体としての性能を持っている。その性能を示すための各種の実験結果を紹介し、SC杭との性能比較も含めて新しい耐震杭としての性能を示した。
3.2 SPHC杭の設計法
毛井 崇博(九州工大)
SPHC杭の設計法について使用材料の詳細(PHC杭、鋼管、グラウト材)を示すとともに許容軸力も含めた許容曲げモーメントの求め方を示すとともに、杭径等のパラメータでのM-N関係のケースタディ結果を示した。また短期曲げモーメントの設計値と実験値の比較から十分な余裕があることを示した。また最大(終局)曲げモーメントの求め方を示し、実験結果との比較等から設計法に十分な信頼性と安全余裕があることを示した。更に、最大(終局)曲げモーメントの簡便な求め方、せん断耐力の求め方などについても言及した。
3.3 SPHC杭の製造方法
林 隆浩(丸門建設)
SPHC杭の製造はPHC杭と鋼管を一体化するためのグラウト材の充填がポイントである。製造手順としては充填準備、グラウト材練混ぜ、グラウト材充填、養生の工程からなる。準備工事においては取り付け冶具の状況、グラウト材練混ぜにおいてのポイントとなる流動性、比重などの確認状況等を示した。グラウト材充填で充填用のトレミー管の扱い、養生では温度管理がポイントで、特に冬季の管理に関しては実例でその管理結果を示し、グラウト材の強度管理結果の妥当性がデータで示された。
3.4 SPHC杭の設計への適用
梅野 岳(梓設計)
最初に前回の技術交流会において述べた既製コンクリート杭の弱み克服戦略を紹介し、大地震時の既製コンクリート杭の安全性の確保のためには、高強度化と共に高靭性化の必要性を述べた。またSC杭を使った事例での課題についても言及した。更にSPHC杭の可能性としてのコスト的な視点、変形性能の有効な使い方、解析ツールの更なる整備等議論になることを示した。また大地震動に対する基礎の構造性能目標の再確認の必要性と損傷を最小限にすることの社会的な認識の必要性を述べた。
4. 討論
基調講演に対して、構造物の変心と杭の被害の関係は設計者として重要であり、その追加説明の要望及び杭被害の確認と杭地中部の被害についての質疑があった。SPHC杭に関しては杭頭部の力の伝達に関する質問があり、今後検討すべき課題もあるとの回答があった。また実験結果に比べて仮定(設計)が安全過ぎないかとのコメントがあった。径厚比に関してその数字が大きくなったときの挙動に対して変形性能が十分発揮できるかどうかの質問に、内側のPHC杭の拘束効果で対応できると考えているとの回答があった。