機関紙「パイル・フォーラム」

機関紙「パイル・フォーラム」第二十三号

発行日:令和4年10月17日

第10回パイルフォーラム技術交流会
「既存杭の撤去と新設杭の設計・施工」

日時:令和4年9月15日(木)13:30~16:00
会場:東京ビッグサイト 西ホール 地盤技術フォーラム2022特設会場

近年、市街地の工事において旧構造物を撤去した後に新設構造物を施工するケースが急増しています。既存杭を撤去し、その後に良質な土やセメント系充填材による埋め戻しを行った後に、新設杭の施工を行っています。ところが、埋戻し部分はその周囲の原地盤と均一にはならず、新設杭の施工において偏心や傾斜などのトラブルに繋がることがあります。そこで、本技術交流会では、既存杭の撤去・埋戻し方法、既存杭を撤去した地盤の特性、既存杭撤去地盤に新設杭を施工する場合に起こりやすいトラブルやそれを回避した事例、新設杭を設計・施工する場合の留意事項をそれぞれの問題に詳しい専門家による解説を行いました。
当日は、定員100名のところを120名の方まで会場にお入りいただきました。さらに多くの方が入場をご希望されておりましたが、コロナ感染予防のため、それ以上の入場をお断りいたしましたことお詫び申し上げます。機会がありましたら同様の企画を考えておりますので、その節はご参加くださるようお願い申し上げます。
以下に各講師の講演内容の概要を紹介します。

会場風景1

桑原文夫(パイルフォーラム)

桑原文夫(パイルフォーラム)

1. 既存杭の撤去・埋戻し方法

三反畑勇 (安藤ハザマ)

三反畑勇 (安藤ハザマ)

既存杭の撤去・埋戻し方法の現状を、研究委員会の成果(報告書)に沿って紹介した。まず、撤去方法と埋戻し方法の分類図を示し、9種類の撤去方法の施工手順と施工管理の要点(作業段階別のチェックポイント)等を概説した。埋戻し方法は、用いる材料の種類、その入れ方、撹拌方法という3つの観点で細分類できるということを述べ、それぞれの施工手順と留意点を示した。そして撤去した杭孔の埋戻しに関するトラブルが発生している現状を踏まえて、研究委員会が作成した「撤去工法と埋戻し工法の組合せとその評価」の内容を紹介した。最後に「一度乱された土(地盤)を完全に基に戻すことはできない」ことを前提に、関係者で現状と課題等の情報を共有し議論することの重要性を強調した。なお、報告書には各工法の適用範囲、トラブル事例、残すべき情報等が詳しく記載されているので参照されたいとのコメントが付け加えられた。

2. 既存杭の撤去・埋戻し地盤の特性

古垣内 靖 (東急建設)

古垣内 靖 (東急建設)

地盤工学会関東支部委員会の報告書4章を中心に既存杭の撤去・埋戻し地盤の特性について述べた。埋戻し部の目標強度の設定方法は定まっていないが新設杭への影響が考えられることから、新設杭の設計や施工に十分配慮する必要がある。この埋戻し地盤の性状は、既存杭の撤去方法、埋戻し方法、埋戻し材が起因している。代表的な撤去工法(ケーシング縁切引抜工法とオールケーシング破砕撤去工法)の撤去・埋戻し方法の概要や特徴を述べ、委員会で実施したアンケートで得られた埋戻し部の調査結果のうち13事例紹介した。また、調査結果が得られている全31例より、撤去方法、埋戻し材、埋戻し方法で分類し埋戻し方法の現時点での評価も示した。今後さらに、埋戻し部の調査が撤去工法ごとに実施され、評価が逐次更新されることで、撤去・埋戻し方法が改善されていくことが望まれる。

3. 既存杭撤去地盤に施工する既製コンクリート杭の諸問題

木谷 好伸 (三谷セキサン)

木谷 好伸 (三谷セキサン)

既存杭や撤去孔に近接する位置に既製コンクリート杭を施工する際は、平面位置では、新設杭と既存杭が近接または部分的に重なる場合に孔曲がりなどのリスクが大きいこと、鉛直面では、既存杭撤去により、周辺地盤や先端地盤がゆるむとされるため、新設杭の先端深度を既存杭より深い位置に計画する必要があることを示した。またCOPITA会員社を対象としたアンケートでは、孔曲り系のトラブルが83%であった。具体例として、撤去孔の埋戻しが不完全で強度が弱い場合には、埋戻し部側に掘削孔がズレたり、埋戻し孔内の強度にムラがあると弱い側に曲がるので、その対処法を、施工管理記録例を示しながら紹介した。
最後に認定内容に関する留意点として、トラブルを想定して未然に防ぐ対策をとること、認定範囲を逸脱する方法で対応せざるを得ない場合は、構造的な検討や撤去埋戻し孔の地盤調査をして支持力検討をすること、紹介事例のような検討の具体例や実験結果を収集し、各学会の出版物等に記載することなどを提案した。

4. 既存杭撤去地盤に施工する場所打ちコンクリート杭の諸問題

宮本 和徹 (東洋テクノ)

宮本 和徹 (東洋テクノ)

既存杭撤去地盤での新設杭の施工状況などについて、日本基礎建設協会会員を対象にアンケート調査を実施したところ、新設杭施工のみを行った場合は、同じ会社が撤去工事と新設杭施工の両方を行った場合よりも新設杭のトラブルが多いことが分かった。これは、既存杭撤去工事の情報が十分でないまま、対策を講じずに新設杭施工を行ったためと推測される。新設杭のトラブルの種類は掘削孔の曲がりや傾斜が最も多く、対処方法は修正掘削による方法が最も多い。対策方法は、長尺ケーシングを用いる方法が多く、杭心を偏心させることや先導孔掘削を行うことなどがある。
また、新設杭と既存杭撤去孔の傾斜を考慮し、2xL/100+0.1m(L:既存杭撤去先端深度m)以上の離れがあれば、新設杭施工時に既存杭撤去地盤による影響は受けにくいことや既存杭撤去と同じ杭心で新設杭を施工する場合、流動化処理土の壁厚は、孔壁部で150mm以上確保できるように撤去計画時に留意することを紹介した。

5. 既存杭撤去地盤に築造する新設杭の設計方法

小林 治男 (大成建設)

小林 治男 (大成建設)

既存杭撤去孔の埋戻したところに近接して新設杭を施工する場合、既存杭撤去に伴い、地盤の緩み(剛性低下および強度低下)が生じるため、その新設杭の構造性能に影響を及ぼす可能性がある。また、撤去孔埋戻し材の充填が十分に行われていない場合も新設杭の構造性能に影響を及ぼす可能性がある。
既存杭撤去に伴う地盤の緩みについて、既往の研究では撤去ケーシング径の2.5倍程度の平面位置までN値が緩む報告があり、この範囲に新設杭を計画する場合は、緩みに対する配慮が必要と考えられる。 撤去孔埋戻し材の充填が十分に行われていない場合を想定して、既存杭撤去孔と新設杭の平面的な位置関係を、1D以上離れた場合、1D以上離れていない場合、部分的に重なる場合、完全に重なる場合の4つのケースに分けて、設計上どのように考えれば良いかの一例を示した。

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